紅芳記

婚礼の儀は滞りなく終わり、宴の後に解散となりました。

源次郎殿、利世殿はこれより初夜ということで、侍女達は影でバダバタと準備に勤しんでいます。

私と殿は早めに床につき、人手を煩わせぬように致しました。

「今頃どうしておりましょうね。」

「そうさのう…。」

「源次郎殿はともかく、利世殿はさぞ不安にございましょう。」

「何故そう思う。」

「私がそうだったからにございます。」

「はは、確かにあの時の小松はガチガチであったの。」

「笑うことはないではございませぬか!
あの頃はまだ幼かったのです。」

「うむ、小松はあの頃より随分と大人になったのう。
特に…」

殿は突然私を抱き寄せ、その手はなんと胸に…。

「ここがの。」

「きゃっ…!
殿!!」

殿は可笑しそうにケラケラとお笑いになってしまわれました。

「お戯れがすぎまする!」

私は殿より逃れ、殿に背を向けて布団にくるまりました。

「すまぬ、すまぬ。」

殿は笑いを堪えた声で謝りながら私の布団に入って参られました。

「小松は美しゅうなった。
それに、わしはあの頃よりそなたを愛しておる。」

そんなことを囁かれ、私を抱きしめてくださいました。

バクバクと心の臓が脈打ち、顔は真っ赤。

殿に聞こえてしまうのでは…。

こればかりはあの頃より成長致しておらぬようです。

無理矢理殿の方を向かされます。

「小松…」

口づけられ、私はそのまま殿に身をまかせました。


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