紅芳記

私が身体を起こそうとすると殿に、そのままでよい、と褥に押し戻されました。

「殿、懐妊は病ではないのですよ。」

「わかっておる。
わかっておるが、やはり心配じゃ。」

殿は照れ臭そうにおっしゃいました。

「家臣達を放ってはおけませぬ、知らせを…」

私の部屋に篭りきりで、まだ家臣達には何も知らせずにいたのです。

「わしが行く故、そなたは寝ておれ。
良いな。」

殿は眉間に皺を寄せて仰せになります。

「承知つかまつりました。」

柔らかい声で答えます。

殿は後ろ髪引かれるように何度も何度も振り返りながら表に参られました。


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