紅芳記
「ひでぇ。
太閤は鬼じゃ…」
私の隣にいた、町人の男がボソッと呟きました。
「才蔵、参るぞ。」
「え?」
「もう、良い。
屋敷に戻ろう。」
私は才蔵の返事を待たず、三条河原に背を向けて歩きだしました。
なんと、惨い…。
涙が溢れるのを、私は止められませんでした。
才蔵も、何も言わずに私の後ろを歩いて来ます。
「うえぇえぇーん!!」
幼子の泣き声に、思わずそちらを見ました。
幼子を抱き抱え、同じく涙を流す母。
「だから、見るなといったんや!
あんなの、お前みたいな子供の見るもんやない!!」
この親子も、先程の光景を見てしまったのね…。
私は早足で屋敷に戻りました。