紅芳記

なんだか、急に父上や義母上が恋しくなってきてしまいました。

会いたいときに会えないとはつらいものです。

されど、私には新たに義母上ができました。

「それでは、駿河御前さまにご挨拶に参りますので、これにて失礼致します。」

駿河御前さまとは、秀吉さまの妹君で、一昨年家康さまが娶られた方です。

しかし私が立ち上がると同時に、義母上ほどの歳の女人が部屋に来ました。

「もし、小松姫殿はこちらにいらっしゃいますか?」

とても優しい、柔らかい声で近くにいた侍女に尋ねられました。

「は、はい。」

侍女が答えると、中へ打掛を引きずりながらいらっしゃいました。

「義母上さま!」

秀忠さまは嬉しそうに上座をお空けになります。

「おぉ、これは美しい姫さまじゃ。
私は朝日にございます。」

朝日姫さまとは、駿河御前さまのお名前です。

「お、お初にお目にかかります。
小松にございます。
幾久ししゅう、よろしくお願い申しあげます。」


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