紅芳記

皐月の頼綱の命日の近くに、一回忌の法要を執り行うためにお帰りになった殿は、あるお客様をお連れになっていました。

殿と一緒にお越しになったお客様は、かなりお歳を召されているご様子にも関わらず、派手な衣装に風変わりな髪型をされていて、なんというか…変わり者のお方でございます。

「殿、おかえりなさいませ。
こちらのお客様は?」

「ああ、このお方は前田慶次殿じゃ。
かの前田利家公の甥である。」

「前田…慶次様?
このお方が?」

前田慶次様と云えば、京で有名な傾奇者です。

昔から殿とは親交がおありのようでしたが、私がお会いするのは初めてでございました。

「おおー!
これが源三郎殿の奥方様か!
成る程、噂に違わぬ美丈夫とお見受けする!!」

慶次様のお声は思ったよりも低くて大きくて、私は驚きながらもご挨拶申し上げました。

「いやいや、これから会津に行こうと旅支度をしていたら偶然にも源三郎殿とお会い致しまして、通り道の沼田領を素通りするのも憚れたものでございますから、お言葉に甘えて一緒について参りもうした!
いやー、このようなお美しいお方が奥方様とは隅に置けないものでござるな!!
あーっはっはっはっは!!!」

「は、はあ…」

「慶次殿、小松が驚いております、程々にしてくだされ。」

「おっと、これは失敬!!
儂は前田慶次郎と申します!!
この源三郎のちんちくりんとはこれが幼い頃からの仲で、奥方殿にも以後お見知りおきを!!!」

「は、はい…。
こちらこそよろしゅうお願い申し上げまする…」



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