零の狼-新撰組零番隊-
小太刀を中段に構える私。

居合いを抜き放ったままの体勢の男。

互いの得物同士が交錯したまま、私達は動きを止める。

拮抗した力のまま、刃同士が鬩ぎ合っている。

「こいつは驚いた」

男が呟く。

「俺の『人斬り包丁』を受け止めるたぁ…見かけによらず大した剣腕だな、あんた」

「……」

人斬り包丁。

聞いた事がある。

長ドスを得物とし、あるヤクザ者同士の抗争で、たった一人で五十人近くを斬ったという侠客がいると。

平和なこの時代にそぐわない凶行に、その侠客の長ドスは『人斬り包丁』と呼ばれ、裏社会ではちょっとした有名人になったという。



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