零の狼-新撰組零番隊-
「む」

黒塗りの高級車に乗り込もうとした額田の前に、私は姿を現した。

風はない。

私の身のこなしだけで揺れるのは、ポニーテールにした長い黒髪。

そして浅葱色に段だら模様の羽織…。

「貴様、誰だ?」

額田の警護についていた黒服の男二人が、前に出る。

SPだろうか。

その二人を制し。

「まぁまぁ」

額田は千鳥足で私に歩み寄ってきた。

「せ、先生!危険です!」

「何が危険なもんか。年端もいかん娘じゃないか、それに」

額田の鼻先が微かに動く。

私の髪を香りを、鼻孔に吸い込むように。

「こういう『女』になりきる前のが、私の好みでな」

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