混沌のグリモワール~白銀の探求者~
その腕の主は少年、コーラル・ケイリュオンより幾らか年上の青年。
ところどころに防護用の金属具が取り付けられたジャケットを羽織って降り、胸には魔法警察機関『SIREN』のメンバーの証であるバッジが付けられている。
青年は紅に染まるコーラルの拳を自分の元に引き寄せ、それに自分の右手を重ねた。
青年の手の平から溢れ出す薄緑色の魔力光。それを当てられたコーラルの拳の傷はみるみるうちに塞がっていく。
魔力の力を利用して対象者の自然治癒能力を促進する。一般的に回復魔法と呼ばれる魔法の一種だ。
青年は回復魔法をかけたままコーラルを見つめ、話しかける。
「俺は自らを傷つける奴が嫌いだ。両親からもらった体を大切にしない奴が大嫌いだ」
有無を言わさず吐き出される拒絶の言葉。
コーラルはそれに対して表情を曇らせるが、青年は構わず続ける。
「いくら体を痛めつけようとも、お前の心の痛みが和らぐことはない。俺もガキの頃に家族を失った身、お前の憎しみも怒りも理解できる。けれど、負の感情はなにも生み出さない。なにも救えない」
目の前で自分も同じだと、気持ちがわかると語る青年。
同じだということからの親近感か、見事に心のうちを言い当てた青年に対する信頼感か、理由はわからない。
わからない……が、コーラルは目の前の青年に対して心を開き初めていた。