【愛祐実×詩音】スキをちょうだい~虹那編~
何を話しているのか分からないけど、これ以上側で2人の話を聞きたくないと思ったあたしは、ゆっくり楓の手を離すと数歩歩いて距離をとった。
レイカちゃん、何の用事?
もしかして楓に「会いたい」とか言ったのかな……。
周りの雑音のおかげで、幸いにも楓の声は耳に入ってはこなかった。
楓まさか……やっぱり帰る……なんて言わないよね?
今日はあたしたち、恋人同士なんだよね?
いつまでも終わらない電話に不安で押しつぶされそうになって、思わずバッグから携帯を取り出す。
リダイヤルで亜依を探して通話ボタンを押そうとした時、笑顔の亜依と颯太が頭に浮かんで、そのまま携帯をパタンと閉じた。
2人の邪魔しちゃだめだ……。
亜依からはメールも不在着信も入っていなかったから、きっとうまくいってるんだよね?
ギュッと目を閉じると、後からポンと肩を叩かれた。
「悪い、虹那。ほら、ハニーハント行こーぜ」
何もなかったようにあたしの手を繋ぐと、楓がゆっくりと歩き始め、あたしも慌てて後を追う。
「楓?大丈夫なの?」
「何が?」
「……今の、レイカちゃんなんでしょ?」
「ああ。でも平気」
レイカちゃんの名前を出した途端に楓の顔色が変わる。
何かあったんだって確信した。
「何て言われたの?」
「今から会いたいって」
……やっぱり。
レイカちゃんは期待してたんだよ。
いつもみたいに今日、楓と過ごすことをーー…
複雑な気持ちを抱えながら、その後の言葉が出てこなかった。
「でも断ったから」
「え?」
「虹那といるから無理だって」
「亜依や颯太もいるって言えばよかったのに……」
「今は2人だろ?」
「そうだけど……」
『虹那といるから』って言ってくれたのは素直に嬉しいけど。
さっきまでとは違う楓の横顔に、ますます不安が押し寄せてくる。
本当は楓、レイカちゃんのところに行きたいの……?