花がつなぐもの

・入社式

入社式当日―――



自転車通学で高校に通っていた私は、

電車が苦手だった。

入社式に遅刻はマズイと思い、慣れない電車に、

乗る緊張もあって、1時間も早く家を出た。

道に迷った時や、乗り違いがあっても、

焦らないように早く家を出たのだった。

しかし、都内の駅の出口は、田舎の駅の出口とは違って、

とても多かった。

私が住んでいた所の駅は、出口は2つ。

北口、南口の2つ。

しかも、コンビニ側の出口で通じてしまう程の駅。

これを都内で間違えて出てしまったなら、

迷路に迷い込んだようになってしまう。

案の定、恐れていた事態は起きた。

起きてしまった。

出口の番号を、度忘れしてしまった。

田舎者が、どのように回避していいか分からなかった。
とにかく必死で歩いた。

どこをどのように歩いたのかは覚えていない。

残されたのは、”私の記憶力”という、本能的な力のみだった。

入社面接の時に通った道の記憶を引っ張り出し、

必死に探し、歩き回った。

『周りから見たら
どんなふうに映って
いたかな・・・。』

その時は何も感じている暇は無い。

『入社式遅刻=クビ』

それだけが頭の中を駆け巡っていた。

心臓は今までにないくらいの音で血液を送り出していた。

どれだけの速さで血液を送っていただろう。

今にも、周りに聞こえそうなくらいに。

きっと、半べそ状態だったと思う。

情けない・・・。

しかも、頼りになるはずの携帯は忘れる。

情報ゼロ・・・・。



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