甘いクスリ
長めに借りたシャワーで
知らずに流してしまった涙を
なかった事にした。
「先生、遅いってばーっ。」
開けて着た浴衣に、
タオルをかけて
ダイニングに戻れば、
待ち切れず飲みだしていた
都築が、ブーたれている。
「ゴメン。
あ、俺、ビールがいい。」
手渡された缶の
プルトップを抜き、
まだ熱いノドに、
炭酸を流し込んだ。
くぅっ……
喉がやける……
なんか、頭んなか
グチャグチャで
味も何もわかったもんじゃねぇ
テレビだけが、
沈黙をごまかす様に、
小さめの音で、ニュースを
流している。
「今年も冷夏なんだ。」
ちょっと、おかしな
テンションの都築が、
アナウンサーの言葉を拾う。
勝手に酒盛りなんか
おっぱじめるからだよ。
たいして飲めない癖に。
心のなかで苦笑する。
しかし、冷夏か……
「そりゃ、残念だな。」
極度の寒がりな真月の衣装は
モロに気象に影響される。
「え?なんで?
過ごしやすくない?」
不思議がる彼女に、
一般常識をふりかざし、
もっともらしい言い分を
述べるが、俺も単なる男な訳で
今度のボーカルさん達の
衣装には、期待している。
特に、真月と恋は
いつも衣装のキワドサに関する
前評判が高い……
さすがの俺も、惚れた女に
そんな内心は話せない。