甘いクスリ
会社の前で
降ろしてもらったけど

あの短い距離ですら

わたしは緊張して
手に汗をかいていた。


『ありがとうございました。』

うまく出せない声を
振り絞って、そういえば。

『お礼なんて、いいから。
ちょっと今日の夕方
時間、いただけないかしら。』


すっと細められた眼が


恐かった。



さっきと同じ様に
彼女は笑っているのに。


どうしようもなく
怖く感じる。


『昨日の店で、待ってる。』


返事すらできなくなった私に
笑みを一方的に向けて
彼女の赤いスポーツカーは
走り去っていった。





怖いよ。


先生ーーーーー






相手の腹が読めない事が
こんなにも、恐怖に感じる。


何を聞かれるんだろう。



やっぱ、先生の事?

本当の関係とか


何か勘違いとかして、

別れてくれとか

彼女とよりを戻すよう
口添えしろとか?


いい加減、妄想にも
行き詰まり、
限界が来て、やめた。


・・・・
つまんない読物の
読みすぎかも



実際、そんなの、そうそう
聞いた事がないっつーの。


行かなきゃ、わかんないんだ。


動かなきゃ、
何も見えないし、
変わらない。
 


 
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