甘いクスリ
 
・・・まさか、
悪阻なんかじゃ
ないわよね?!

どうしたモノかと
気を揉んでいれば、
扉があき、真月さんが現れる。


「まったく。
子犬みたいな目、
してんじゃないわよ。」

苦笑混じりで、そういう。


「心配しなくても、
緊張してるだけよ。」

胃をさすりながら彼女はいう。

「鷹尾先生が心配してました。
あ、そうだ・・・これ、
食べますか?」

とっさに、鞄の中の
オヤツの存在を思い出す。
絶対空腹がいけないんだから。

お母さんが、よく言ってた。
三食きちんと食べなきゃ
ダメだって。

保冷剤で暑さ対策万全の
ポーチから、
チョコレートの包みを
取り出した。

「ああ、もらおうかな。」

そろそろ、楽屋に
行かなきゃねっていいながら、
真月さんは、板チョコを
唇にくわえた。

二人で、楽屋に迎おうと
トイレを出れば

「真月?大丈夫・・・そだな。
その様子だと。」

心配そうな鷹尾先生の声に、
私たちは、振り返る。

タバコをくわえて
こちらを・・・正しくは
真月さんを見つめる先生。

「大丈夫よ。樹里。
緊張してるだけだから。
そだ半分食べる?」

チョコをくわえたまま
器用に話す真月さんに

「・・・真月のバカ。」

真っ赤になった先生。
まさか、間接キスとか
思ってないわよね・・・

「だからね、樹里。
お顔、真っ赤ですよぉ。
また、後でね。」

クスクス笑う真月さんと

「ああ。」
 
優しげな眼差しの鷹尾先生

堂々と想いあう二人が
何だか、羨ましかった。


 
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