甘いクスリ
 

「んぢゃ、姉貴、また来るよ。
義兄さんにヨロシク。」

家事に、一段落つけた姉貴が
玄関まで見送りにきてくれる。

「おりちゃんっ。だめーっ。」

帰ろうとする俺にすがりつく
甥の可愛い事ったらもぉ・・・

「和紀、また来るから、
今度、あそぼ?」

持って帰りてぇ・・・

どちらかといえば、
離れ難いのは俺の方だ。

宥めながら、デレデレなのが
自分でわかる。

「和紀、聞き分けのないのは、
いかんな。
晴紀予備軍とは、いただけない。」

容赦なく、俺の首に巻き付く
我が息子を引きはがし、
今のうちに帰れと目で促す姉。

それに従い庭にでれば
閉めた引き戸の奥で
『おりちゃーん・・・』と
自分を求める声がして
帰るという意志自体が
揺らいでくる始末で。

後ろ髪を引かれる思いで
ポケットの中の車のキーを
探りながら、
コインパーキングへと
歩きだした。

 
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