甘いクスリ
 
最初の頃の
手厳しい琴子を思うと
怖くて、聞けそうにもない。


「わあ、コレも素敵っ!!」

俺の葛藤なんざ、
気にもとめないのか
彼女は、並んだギターを前に
ご機嫌でキョロキョロ
している。

「ねぇ、この子で
何か弾いて?」

ふいに、彼女が
一本のギターを指して言う。


「え?!」

急で驚く。

「だって、先生の好きな曲って
知らないんだもん。
レッスンの時は、そういう
選曲じゃないんでしょ?」


そういえば、そうだな。

俺の技量を判った人間の前で
弾くんだから、出来栄えは、
いいや・・・ってな、
軽い気持ちで
目の前のギターを抱えた。


 



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