甘いクスリ
随分昔に亡くなった
母親を思い出して
涙が、あふれた。
小さかったから、曖昧だけど
あれは、正月前の
入院病棟の個室だった。
当時、高校の制服を着た姉貴に
手を引かれ、毎日、見舞いに
通っていた。
ある日、母親が、姉貴に、
一通の通帳を預けるのを、
不思議な気持ちでみていた。
『これは、晴紀のモノよ。
まだ、貴方が持つには早いから
千香子に預けるわね。
晴紀、お年玉、一杯もらっても
無駄遣いしちゃだめよ。』
そういって、母は笑って
いたけれど・・・
本当は、その頃には、
もう、
感じていたんだろう。
自分が、長くないと
いうことを。
確か、それから、
あまり経たないうちに
亡くなった様な記憶がある。
「流石、親ってのは、
子供の性格をよく把握してる。
俺が、浪費家になるって
わかってたのかな。」
俺の様子を見守る琴子に
照れ隠しに、そんな事を
言ってみたりして、
古い割に保存状態のいいそれを
ペラペラとめくった。