甘いクスリ


 
いけない事だと
わかってる。


こんな事は、堂野先生の
ためにならないって
重々承知してる。


でも

あの表情に
負けたとはいえ

引き受けたからには、
ちゃんと仕事を
全うしなきゃって、
思っちゃって。

そんな必要ないし、
なんなら、しちゃいけないのに
何やってんだか・・・。


後ろ髪ひかれながら、
やってきたのは、
営業部配属の、
短期大学時代の先輩のところ。


コンサルティング会社の
我が社で、毎月トップスリーに
入る業績の人だ。


「ほ〜っ。都筑が、交渉事だ?」


まさか、結婚詐欺ならずとも、
誰かを騙すなんて言えなくて、
うまい言い方をしてしまった。

「で、コツを伝授いただければ
・・・と、思いまして。」

ひきつった笑みを浮かべる。


「そうだな・・・。
にわか交渉人に、
得られるコツはないが。

でも、
着地点を明確にすることと、
ダメでも、
二位、三位の着地点を設けて
そこへ降り立つ事かな。

そうすれば、
翻弄されても、ブレない。」

「なるほど・・・」


「で、おぬし、何を
交渉しようとしておる?」

明らかに疑わしい目を、
先輩はむけてくる。


「ああっと・・・。
結婚・・・したくない詐欺?
みたいな・・・」

「はっ?」

更に怪訝な表情をした先輩を、
苦笑で、ごまかした。


 


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