甘いクスリ
弾かない時の手入れの仕方とか
予備の弦を渡したり、
一通りを話終えて時計をみれば
終電ギリギリの時間に
なっていた。
やはりギターを
習いにきてるだけあって、
意外と、ギブソン一本で、
かなり盛り上がってしまった。
「だーっヤバイ!
じゃっ、帰るからっ」
慌てて、部屋を飛び出した。
死ぬ気で走れば、
何とか間に合う。
今日は、財布が淋しいから
タクシーなんざ
以っての外だ。
くそー・・・
車で来りゃあヨカッタ
慌てふためいてる時に限って
ジーンズの尻で携帯が震える。
なんだよ。こんな時に?!
はっ?姉貴っ?!
でねぇと、後で
シバかれる。
「もっ、もしもしっ?!」
『おー。晴紀。
その首尾はどうかねっ?』
「何だよ、姉貴っ?!
今、いそいでんだよっ!!」
いかんっ・・・
姉貴に付き合う時間はない。
息もあがってきた。
『態度わりぃな。堂野晴紀。』
だから、何で
フルネームなんだよ?
「電車、乗り遅れそう
なんだよっ
世間話なら、
明日にしてくれーっ!!」
『おー。じゃあ、
用件だけ言ってやる。
お前、琴子ちゃんの部屋に
財布忘れてるぞ。
じゃあなっ』
何だとっ?!
受話器の向こうでは
既に、通話終了の不通音が
一定間隔で鳴り響いていた。