甘いクスリ
 

何で、一人暮らしの
都築の部屋に、
こんなオッサンが、
好みそうな柄の
パジャマがあるのか、
疑問だった。

「・・・ずいぶん、
渋い好みだな。」

思わず聞いた俺に

「ああ、父にと思って
買ったんです。
入院してたから、
着替えにと思って。
直に亡くなったけど、
捨てるのも何だし・・・」

ああ。

そういえば、家に
連れていったときに、
都築は、そんな話を
していた。

俺も、割と早く、両親を
なくしたけど、兄姉がいて。
親代わりに面倒をみてくれた。
寂しくもあったけど
旧家だし、面倒ながらも
何とかやってこれた。


でも、都築は、
親戚もなくて。

一人になったんだよな。

七海んちが隣で、
色々面倒みてたみたいだが。

七海の姉妹みたいに、
目をかけてくれて、
半ば、七海の親父のおかげで、
今の会社にも就職できたと、
都築本人がいっていた。


『七海、琴子ちゃんみたく
なりたくて、一緒にギター
始めたんだよ。』

あの日、七海に連行されたとき、
一方的にしゃべっていた、
彼女の言葉を思い出す。

「今から、シャツを洗えば、
十分、明日には乾きますよ。」

都築の言葉が、
俺を現実に引き戻した。


 
< 70 / 212 >

この作品をシェア

pagetop