甘いクスリ
「あ、あたし・・・」
帰ります・・・
その言葉すら
うまく発せられないのは
なんでだろう。
逃げたいよ。
逃げだしたいよ。
こんなところに
立ち会うなんて
いやだよ。
関係ないハズなのに。
確かに、偽カノなんて
引き受けたりしたけど。
先生にとっては、
大して他の生徒とも
変わんないはずなのに。
わたし・・・
「琴子、帰るぞ。」
思わぬ台詞が
先生の口から出てきて
目を見開いた。
『琴子』って、言った。
いま、『琴子』って。
「マリ。
俺も、ずっとそう思ってた。
お前に悪いことしたって。
後悔ばっか、してた。
でも、いまは、彼女と居て
幸せだから。」
先生に、手を
繋がれたまま。
目の前のマリさんに
向けられた拒絶の言葉は
マリさんと同じくらい
先生自身をキズつけてると
身にしみて理解できた。
だって
ありえない程
震えてるんだもの。
先生の
指が。