甘いクスリ
 

「琴子、いくぞ。」


お札を数枚、バーテンに渡して
先生が、私の腕を引き寄せる。

ショットバーの外まで、
見送りに出てきたマリさんは、
私に、再び、申し訳なさそうな
視線を送ってから口を開いた。

「晴紀、携帯、変えたの?」

「変えてない。
でも、かけてきても
俺、出ないから。」


先生の指は、震えたままで。



何で、嘘、つくの?





本当は、まだ
マリさんの事
好きなんじゃないの?


偽カノの私は、
そんなお節介すらも
言えないまま
この苦い空間で俯いていた。



先生、



あまり



キズつかないで?





私の方が
苦しくなるよーーーーー








 

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