甘いクスリ
ーーー先生、うちで
飲みなおす?ーーー
そんな声を、
かけてあげることすら、
出来ない狭量な私は
無言で歩く先生に手をひかれ
家に到着した。
ーーーひとりじゃ、辛いなら
泊まっていく?ーーー
喉まで出かかってる言葉も
声にならなくて
泣きそうになる。
「どうぞ・・・」
結局、いいたくて
喉から、流血しそうな台詞は
飲み込んでしまって
無機質な言葉と共に
ギターケースを
手渡すだけだった。
「なんか、ごめんな。
重くってさ。」
苦笑ですら、
うまく笑えない先生が、
それでも、乾いた軽口を叩く。
「いえっ全然っ」
・・・何が
全然よ。私。
「おっ、おやすみなさい。」
泣きだしそうな
気持ちを押し殺して
エントランスまで見送る。
ホントは、部屋の外で
扉を閉めてしまいたかった。
閉めたついでに
零れてきそうな涙を
重力に委ねたかった。
でも、
そんな訳にも
いかなくて。