観覧車大作戦【短編】
私は正面のドアに目をやった。
そこから、テレビの音がもれ聴こえる。
彼はバスルームではなく、部屋にいるのだ。
ということは、バスルームにいるのは、白いヒールの持ち主だ。
つまり、ここはそういう現場なのだ。
愕然(がくぜん)として、ケーキの箱を落とした。
箱の中からイチゴが転がり出た。
そのとき、シャワーの音が止まった。
バスルームのドアの開く音が聞こえる。
「透、誰か来たんじゃないの?
ノックの音、してた気がするけど?」
女の声だった。
その声を聞いて、ハッと我に返った。
何やってんだ、私。
玄関のドアをバタンと閉じた。
すぐさまケーキの箱を拾い上げ、急いで近くの階段を駆け下りた。
ヒールの音が、乾いた空気によく響いた。
涙の粒が夜風に散った。