観覧車大作戦【短編】

私は正面のドアに目をやった。

そこから、テレビの音がもれ聴こえる。

彼はバスルームではなく、部屋にいるのだ。

ということは、バスルームにいるのは、白いヒールの持ち主だ。


つまり、ここはそういう現場なのだ。


愕然(がくぜん)として、ケーキの箱を落とした。

箱の中からイチゴが転がり出た。


そのとき、シャワーの音が止まった。

バスルームのドアの開く音が聞こえる。


「透、誰か来たんじゃないの?
ノックの音、してた気がするけど?」


女の声だった。

その声を聞いて、ハッと我に返った。

何やってんだ、私。


玄関のドアをバタンと閉じた。

すぐさまケーキの箱を拾い上げ、急いで近くの階段を駆け下りた。


ヒールの音が、乾いた空気によく響いた。


涙の粒が夜風に散った。

< 15 / 61 >

この作品をシェア

pagetop