『短編:ついでのメリークリスマス』
やかんがピューと大きな笛の音をたてて、湯が沸いたことを知らせる。
紅茶か何かを入れてくれるつもりなのかもしれない。
手伝わなきゃ、とも思ったけど、今はそれよりも大事なことがある。
「どうして隠すの?」
「いや、隠すって言うか。ケーキを作る男なんて、聖香が気持ち悪がるかと思って。
何件か店にあたってみたけど、やっぱり誕生日用はないって言われてさ。
チョコプレートだけ変えるならできるって言われて、だったら土台から作ってやれって思って」
恥ずかしそうに視線をはずす人和の姿を見て、体中からじんわりと愛しさがこみ上げる。
「実はさ、結構難しくて全然うまく焼けなくて。今日は奇跡的に成功したんだよ」
危なかった~、とケラケラ笑う人和は、いつもより数倍魅力的な男の子に見えて。
多分、私がちっともそれに気づいてなかったんだよね。
「ひょっとして今日、遅刻してきたのも?」
「うん。力いれすぎて家出るのが遅くなった」
失う前に気づいて、本当に良かったね、私。
きっと一生忘れない、最高の誕生日だ。
・・あれ?でもなんで誕生日を知ってたんだろう。