『短編:ついでのメリークリスマス』

やかんがピューと大きな笛の音をたてて、湯が沸いたことを知らせる。

紅茶か何かを入れてくれるつもりなのかもしれない。

手伝わなきゃ、とも思ったけど、今はそれよりも大事なことがある。


「どうして隠すの?」


「いや、隠すって言うか。ケーキを作る男なんて、聖香が気持ち悪がるかと思って。

何件か店にあたってみたけど、やっぱり誕生日用はないって言われてさ。

チョコプレートだけ変えるならできるって言われて、だったら土台から作ってやれって思って」


恥ずかしそうに視線をはずす人和の姿を見て、体中からじんわりと愛しさがこみ上げる。


「実はさ、結構難しくて全然うまく焼けなくて。今日は奇跡的に成功したんだよ」


危なかった~、とケラケラ笑う人和は、いつもより数倍魅力的な男の子に見えて。

多分、私がちっともそれに気づいてなかったんだよね。


「ひょっとして今日、遅刻してきたのも?」


「うん。力いれすぎて家出るのが遅くなった」


失う前に気づいて、本当に良かったね、私。


きっと一生忘れない、最高の誕生日だ。



・・あれ?でもなんで誕生日を知ってたんだろう。


< 24 / 28 >

この作品をシェア

pagetop