『短編:ついでのメリークリスマス』
待ち合わせの駅前は、どこから沸いて出たんだってくらいの人で埋め尽くされていた。
学校の同級生なんだから、帰りにデートすればいいのに、
なぜか人和は一度家に帰って着替えてから、この場所を待ち合わせに指定した。
あっちもこっちもいやらしく抱き合うカップルが目に付く。
帰ろうか、と一瞬思う。
だって待ち合わせようと言い出したのは向こうなのに、もう10分も遅れてるんだもん。
「聖香~!!」
人目も気にせず、すこし甲高い大声で私の名が呼ばれた。
駅前にたむろしている大勢の人が、一斉に人和の方を振り返った。
だからそれが恥ずかしいっての!
私は赤の他人のような顔をして、足早にスクランブル交差点を渡り始めた。
「お、おい!待てよ!聖香!」
人和の慌てた声は雑踏にかき消される。
待たせた上に、恥までかかせて。
ちょっとくらい反省してよ。
私の後ろから追いかけてくる人和の姿が、磨きこまれたショーウインドに映りこむ。
立ち止まった女の顔は、ひどく醜いふくれっ面。
年に一度の誕生日が、一年中で一番不機嫌な日だなんて。
・・ちょっと寂しい。