蝉の恋
「懸命な努力だな。

まったくもって……」

その先は口に出すことはしなかった。

「それでも、鳴いたから得られたものじゃない」


「鳴かない蝉はどうするの?」


そう言って微笑む女は何故か、すごく優しい顔をしていた。

「鳴かない蝉は…。

ただ木を渡り続けるんだよ。

幾つかの木を渡って、またもとの木に帰る。

それを繰り返して、やがて飛ばなくなる。

その後は静かに過ごすんだろうさ。」

優しい微笑みで聞いていた女はフフッと声を出して笑った。

「その最後の木に誰がいるのかは、聞かないであげる。

アンタは恥ずかしくていえないだろうからさ。」

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