蝉の恋
熱いシャワーに打たれながらボンヤリしているとアイツの声が聞こえてきた。

「どうした?」

電話かな。アタシと話す時とは違う優しい感じの声。

それからは電話の相手が話しているみたいで、アイツの相槌が続く。

何を話してるんだか。

聞き耳を立ててるわけじゃないけど、防音性能の低い壁のせいでアイツの声はよく聞こえる。

…変なところで世話がかかるんだから。

取っ手を捻り、シャワーの勢いを強める。

圧力を増した暖かな雨はアタシの体やバスルームに容赦なく降り注ぎ、雨音は余計な音をかき消していく。

アイツのあっちの世界に首を突っ込む気はさらさら無い…。

アタシはアイツのこっちの…日常の世界の人間でいたいしね。

それにしても不用心ね。

シャワーからあがったら一言、言っておいた方がいいかもしれないな。
< 47 / 58 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop