蝉の恋
はぁ、と吐き出したため息と共に私は濡れたままの前髪をかき上げた。

「あんたねぇ…」

巻き込まれたなぁ。アタシはただの傍観者でいたかったのに…。

電話にしろ、当の現場にいたら、ただの傍観者じゃいられないじゃない。

「ワザとやったでしょ」

もちろん、さっきの電話のこと…。

アタシはコイツとも、コイツの彼女とも二人が付き合う前からの友人だ。

だから、コイツから話を聞いて傍観者として楽しんでいるのと現場にいた第三者とでは、アタシの中での重みが違う。

話を聞いているだけならまだ、現実ではない、いわば二次元的なものとして処理できる。その内容がノンフィクションであっても…。

でも、現場にいたら、もうその処理はできなくなるじゃない。


………はめられた。

「やっぱりわかっちゃう?」

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