たった ひとつの 恋
とは言っても、私もそんなにお酒は飲めないほうなので、いつの間にか眠ってしまっていた。


ベッドのうえで目を覚ますと、隣には広海がいて、腕枕をしてくれていた。
「目が覚めた?」
広海は優しく言った。
「あ…寝ちゃったんだ、私」
「少し、な」
春くんが眠って、礼が部屋に戻って、それから…ぼんやりする頭で考えていると、突然に広海がキスをした。

あまりに突然すぎて、私はびっくりして何も言えなかった。広海はもう一度、優しくキスをした。
左手で、私の頬を撫でる。冷たい指輪が私の頬に触れた。

「…彼女に悪いよ」
私は広海の手を退けて、ベッドの上に起き上がった。広海も起き上がり、私達は壁にもたれて並んで座った。隣のベッドでは春くんが寝息をたてていた。

「キス、したかったからした。彼女に悪いことなんかしてない」
広海は私の顔を覗き込んで言った。
そして私の手を握って話続けた。
「さっきの写真、彼女なんだ。みんなが見ても構わなかったけど、おまえにだけは見せたくなかった」
「なんで?」
「おまえにだけは、彼女のこと知られたくなかった」
“どうして?”私はもう一度聞きたかったけれど、聞けずに言葉を飲み込んだ。私だって知りたくなかった、彼女のこと。知らなかったらどんなに幸せだったか。



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