たった ひとつの 恋
「ありがとう」
私は広海の近くにしゃがんで彼からココアを受け取った。さっきまであった眉間のシワはなくなり、そこにあったのは二重の優しそうな目だけだった。
「俺、怖いだろ?よく言われるから慣れてるけど。礼ちゃんにはヤンキー扱いされてるし」
フッと笑いながら広海は言った。
「全然、怖くないよ」
本心だった。
「俺さ、彼女と別れたばかりでイライラしてたから。機嫌悪くてごめんね」
「なんで別れちゃったの?」
私は、こんなに落ち込む別れ方ってなんなのかが知りたくて、広海に聞いた。私の質問に、広海はもちろん、春くんや覚くん、大輔先輩までもがぎょっとした顔をしていた。
「莉子ちゃん、その話は…」
慌てて春くんが広海と私の間に入ろうとするのを広海は制し、フッと笑うと、
「あまり会えないから振られたんだよ」
と言った。


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