†神様の恋人†
「ジャンヌ…わたし本当に、ここに倒れていたの?」

朝食を済ませたジャンヌとミシェルは、家の隣の教会にやって来ていた。

柔らかな春の陽射しが、古い教会の温かみをいっそう引き立てる。

ミシェルには、その陽射しに包まれながら、膝をついて礼拝堂に向かって祈りを捧げているジャンヌの後ろ姿がとても眩しく感じた。

「ねぇ、ミシェル」

ジャンヌは一通りの毎日の日課である祈りを終えると、目の前の大きな十字架を仰ぎながら教会にミシェルの名を響かせた。

「ミカエル様を知ってる?」

「…ミカエル…様?」

「大天使ミカエル。偉大な天使様。天使を率いてサタンと闘われたと、黙示録には記されているわ」

ジャンヌは、少女らしいほのかな笑顔を浮かべ、ミシェルを振り返った。

その笑顔は、ミシェルを錯覚させた。

「ミシェルという名は、ミカエル様に由来しているの……素敵ね。ミシェルはきっと、神様に愛されるわ」

神を語るジャンヌの瞳は、恋をしていた。

ジャンヌは、神に恋しているのだと、ミシェルは錯覚した。

……それは本当に、錯覚だったのか――――?




「……わたしね、いつか神様が、“ジャンヌ”って呼んでくださるのを待っているの」






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