†神様の恋人†
わたしたちが入ると、ちょうどミサが行われていた。

司祭を前にして、会衆が聖歌を歌う姿は荘厳で、ジャンヌは我を忘れて聞き入っているように見えた。

聖歌が終わると、人々は次々と礼拝堂をあとにしていった。

そして、司祭もいなくなった礼拝堂の長椅子に一人残った人物を見たジャンヌが、「あっ」と声をあげた。

「ジャンヌ?」

長椅子に座り、ぼんやりとキリスト生誕の様子が描かれたステンドグラスを見つめる男性の後ろ姿に近づいて行くジャンヌ。

ジャンヌの靴音がその男性のすぐ後ろで止まった時、彼はジャンヌをゆっくりと振り返った。

「……君か」

「ロベール・ドゥ・ボードリクール隊長」

振り返った男性は、意外そうでも驚いた様子でもなく、後ろに立つジャンヌを見上げた。

まだ中年には達していないだろう若々しげな顔に、既に威厳をも漂わせている。

ジャンヌは気難しいと言っていたけど、確かにそのような印象もあった。

「君はまだ16歳だったかな?よく何度も来れるものだ」

「もう17歳になりました。ボードリクール隊長」

隊長はそれを聞いても眉一つ動かさずに立ち上がった。

「帰りたまえ。“神の声”では、フランスは救えん」

ジャンヌは、凛として微笑む。

「では、隊長は何のために祈っておられるのですか?」

隊長はピクリと頬を動かすと、憮然として言った。

「神にわたしの声を聞いていただくためだ。王太子様とフランスの想いをお伝えするのだ。それ以外に何がある?」

「ならば、“神の声”は隊長の中にも既にあるものです。一人の者の祈りは、全ての者の祈りとつながっています。わたしが聞いた“神の声”は、隊長やフランスの救出を願う人々の祈りが輪となって成し得た“光”なのです」

礼拝堂に高らかに響くジャンヌの声は、神々しく、美しい。

隊長はしばらく、声を発することを忘れたようだった。

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