†神様の恋人†
少しして、隊長はジャンヌから視線をはずし、立ち上がった。

「どうやらわたしは、君をただの少女だと見くびりすぎていたようだ」

先ほどまでの気難しさを浮かべた顔が少し緩み、隊長は微かな笑みを湛えた。

「…ボードリクール隊長…では!」

ジャンヌが隊長に近づくのを彼は手で制止した。

「だが、わたしは“神の声”を信じたわけではない。君自身の機知と深い信仰心に感心しただけだ。王太子様に会わせることはできん」

ジャンヌが肩を落としたのを感じて胸が痛くなる。

でもジャンヌは、すぐに落とした視線を真っ直ぐに隊長に向けると、きっぱりと言った。

「それでも、いつか必ず王太子様にわたしを導いてくださるのはあなたです。神がわたしにそう言われた。ならばわたしは、あなたがいつかわたしを信じてくださると、信じるのみです」

隊長は再び気難しく顔を歪めて、ジャンヌの横を通り過ぎ、わたしの目を見た。

「…君も“神の声”を聞いたクチか?」

皮肉気な声に、負けないつもりで言う。

「いえ。わたしは“神の声”を聞くことはできません。でも、ジャンヌが“神の声”を聞いたと言うなら、それは真実です。ジャンヌは神に愛される全てを持っています。ジャンヌはいつだって、正しき行いをしてきました」

クっと口角を歪ませて、隊長は笑った。

「神に愛される“正しき少女”…か」

隊長が行ってしまったあと、わたしたちは礼拝堂の中で、神に祈りを捧げた。


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