†神様の恋人†
ジャンヌの祈りが神に通じたという噂は、あっという間にヴォークルール中に広まり、人々はやがてジャンヌを王太子様の元にお連れするべきだという願いを口々に言い始めた。

「このヴォークルールもまたいつ襲われるかわからない。ジャンヌは神が遣わしてくれた神の子だよ。王太子様に会わせるべきだ」

「ボードリクール隊長は、“神の声”を無視するというのか?」

「もはやフランスを救えるのは、神に遣わされた者しかありえない」




こうして、ジャンヌが“神の子”だという噂は、ボードリクール隊長の耳にも届くこととなった。

一人の祈りが、全ての人の祈りとつながり、祈りが輪となって光を成した瞬間だった。

「ジャンヌ・ダルクを呼んで来い」

隊長の命が家臣の者にくだったその日、ジャンヌは王太子シャルル様のいるシノン城へ行くことを許された。

「ありがとうございます」

ジャンヌの顔は晴れやかだった。

1ケ月半以上も粘ってやっと手に入れた王太子様への切符だった。

「シノンまでは敵地ブルゴーニュ公爵領を通っていかねばならぬ。警護隊をつけよう。一人は王太子様の伝令使コレ・ドゥ・ヴィエンヌだ。他に5名の者がお前の警護をする」

ジャンヌとどこまでも運命を共にすると決めていたわたしは、隊長に懇願した。

「ボードリクール隊長。女ひとりで男性との旅では心配です。わたしはジャンヌの妹。どこまでも姉と運命を共にする覚悟です。どうか、わたしも同行することをお許しください」

隊長は、わたしの目をじっと見てそして気難しげに眉を寄せた。

「いいだろう。ただしお前が行っても王太子様に会えるとは限らんぞ」

「わかっています。ジャンヌに同行できるなら構いません」

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