†神様の恋人†
その晩、ジャンヌはひどく高揚した様子を見せる半面、不安な心も覗かせた。

「ミシェル。シノン城までは馬で旅しても10日間はかかる。本当に一緒に来てくれるの?敵地を通らなくてはいけないし………それに、男性に囲まれた旅は何が起こるかわからない……」

宿屋の部屋で、ジャンヌはめずらしく不安げにつぶやいた。

「何が起こるかわからない。だからだよ。何が起こるかわからないとこにジャンヌを一人で行かせられない。わたしは、8歳の時にジャンヌに救われた時から、わたしの命はジャンヌのためにあるのだとずっと思ってきた」

「…ミシェル…ありがとう」

ジャンヌは、片目に伝った涙をぬぐった。

でも、確かに男性との旅に10代の少女が2人きりでは危険だ。

特にジャンヌは絶対に処女を護らなければいけない。

わたしはしばらく考えて、結論を出した。

「ジャンヌ、明日の出発前にボードリクール隊長にお願いしたいことがあるの!」

「…ミシェル?」




1429年2月22日。

ついにその日はやってきた。

ヴォークルール城の前にあるフランス門には、クロエおばさんやアリア、それにたくさんの街の人々が集まっていた。

「ついに神の娘が王太子様に謁見される」

「ジャンヌは奇跡の子だよ」

門の外から聞こえる人々の喜びの声。

馬に乗ったことのないわたしとジャンヌは、警護隊の男性たちに乗り方を教えてもらい、やっとのことで馬にまたがった。

「ジャンヌ・ダルク。わたしは結局お前を信じた。わたしがお前を信じると信じていたお前の勝ちだよ」

ボードリクール隊長が目を細めて馬上のジャンヌを見上げた。

「勝ち負けではありません。神は人の上に人を作らない。ボードリクール隊長、“神の声”を信じたあなたの信仰心に敬意を表します」






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