†神様の恋人†
「セーヌを渡れば、まもなく王太子様の領地です。今夜はここを渡り切りましょう」

ヴィエンヌ伝令使が皆を先導して、セーヌ河の浅瀬を念入りに探し始める。

馬で河を渡るなんて、ちょっと怖いけど、でもここを渡れば危険な場所はほとんどなくなる。

もう少しの辛抱だ。

「どうやらこの辺が一番浅いようです。わたしと警護隊が前方と上流側を固めます。女性のお二人は我々から離れず、そして落馬しないようしっかりと手綱をお引きください」

男性が上流側に立って二列になる。

ジャンヌの横には、ファビオ。

そしてわたしの横には、神のいたずらか、カミーユがいた。

……カミーユの顔が見られない。

緊張と気まずさで胸が高鳴る。

カミーユもさっきから一言も口を開かなかった。

……カミーユもきっと呆れたよね……わたしのことなんか、もう……。

「行きましょう。皆、落ち付いて進んでください」

伝令使の合図で、わたしたちは浅瀬へと馬を進めた。


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