†神様の恋人†
8歳からの記憶を全て総動員してもこれほどの恐怖は初めてだった。

鼻先で、太くずっしりと重量感のある鋭利な切っ先がわたしを狙っていた。

「兄ちゃん、この子を殺されたくなかったら村一番の金持ちに金と食糧を持ってこさせろ。たっぷりとな」

顔も服も薄汚れた兵士崩れのような格好の中年の男だった。

右手に大きな剣を持ってはいるが、左腕には刺されたらしい傷から染み出た血が服を濡らしていた。

にじり寄る男に、わたしは恐怖で少しずつ後ずさりする。

「やめろ!その子に手をだすな!」

ジャンが一歩踏み出そうとするのを男は傷のある左腕で制止した。

「はやくしな。今のところ殺さないって言ってるんだ。オレは敗戦で気がたっているんだ。いつ気が変わるかわからないぜ」

ぐっと息を呑むジャンの空気が伝わってきた。

……どうしよう…!!

このままじゃわたしのせいでジャンも村の人たちも……!!

…逃げるんだ、なんとかして。

そこからは無我夢中だった。

「ミシェル、何するんだ!?」

ジャンの悲鳴のような声が聴こえる。

でもわたしは迷わなかった。

「ミシェル!!やめろ――――――――!!!」



…………神様―――――――!!!!







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