†神様の恋人†
背中で水を叩く音が体中に響いた。

そのまま水中に沈んでいく感覚に酔いそうになる。

……苦しい。

今、わたし、息できないんだ!

開いた口からたくさんのムーズ河の水が入ってくる。

揺れる水面を通して見える青く澄んだ空がだんだんと遠ざかっていく。

……逃げて、ジャン。

わたしのことなんて助けなくていいから、逃げて。

あなたたち家族に与えられた3年間は、とても幸せだった。

ジャックマン兄さん、あまり話さないけど、とても真面目でわたしを泣かせた男の子を叱ってくれた。

ピエール兄さん、一番泣き虫で、羊が死んだ時はたくさん泣いていた優しい兄さん。

カトリーヌ姉さん、糸の紡ぎ方から、服の縫い方まで優しく親身に教えてくれた。

ジャック父さん、わたしが寂しい思いをしないようにいつもいろんな本を読み聞かせてくれた。

イザベル母さん、いつもおいしい食事を作ってくれて、クリスチャンであることの素晴らしさを教えてくれた。

そしてジャン兄さん、たくさん笑わせてくれて、ありがとう。



でも、ジャンヌ、あなたには何も言えない。

………あなたはきっと怒るね、自ら河に飛び込むなんて馬鹿なことするなって。

ジャンヌは正しいから。

いつだって正しいから。



ごめんね、ジャンヌ。



この世で一番、大好きな人。




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