†神様の恋人†
その瞬間、彼はピクリ、と動きを止めて切れ長な瞳をさらに細めてわたしを吸いこんでしまいそうなほどじっと見つめた。

「ぼ・う・と・く?」

ジャン兄さんと同じか少し年上に見えるその男は、さらにその顔をぐいと近づけて、迫力のある美しさで凄みをきかせる。

な、なに、この人!?

「神が人間の欲情も欲望も全て決めるっていうのか?じゃあ、この欲望に溢れた世界はなんなんだ?誰がこの世界を止めてくれるっていうんだ?神だっていうのか!?」

「そ、そうよ!!神様か、神に最も愛されたお方がきっと世界を…フランスを救ってくださるわ」

寒さと恐怖でガチガチと震えていたけど、でも負けたくなかった。

彼はふっと呆れたようにため息をつくと、すっくと立ち上がった。

「呆れたね。女はわかってないよ。男の欲望の強さを軽くみちゃいけない。……覚えておけ。男を甘くみるな」

……この人……?

なにか言葉に力がこもっているような気がして、ふいに反撃する気持ちが失せた。

「…覚えておく。男を甘くみない。これでいい?」

彼は背を向けたままこちらを振り返ると、片方の口角を上げて笑った。

綺麗な笑顔に、一瞬ドキっとして、思わず下を向いてしまった。

彼は、彼なりに忠告してくれているのかもしれない。

それに今、死にかけていたわたしを助けてくれたのは、事実だ。

「助けてくれて、ありがとう。あなたがどんな方でも感謝します。お名前を教えてくださいますか?」



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