†神様の恋人†
「ジャンヌはさ、前に一度、あの男の命を救っているんだよ」

家の裏にある草原の庭に腰かけて、ジャンは話してくれた。

それは3年前。

わたしがこの家に来る少し前のこと。

男はボリスと言ってれっきとしたフランス人だった。

その時もやはり敗戦で怪我を負ってこの村に流れ込んできていた。

ボリスは腕と足に大けがを負っていたけど、怖い形相をした自分には誰も近寄らず、空腹とケガの痛みで今にも倒れそうだった。

そこへ10歳だったジャンヌが通りかかり、ボリスは少し脅して食糧を手に入れようとジャンヌに近づいた。

するとジャンヌはにっこりと微笑んで言った。

「あなたはフランスのために戦った立派な人。ケガの手当てと食糧がいるのでしょう?」

そしてボリスはジャンヌに連れられて、この家でケガの手当てと充分な食糧を与えられた。

ジャンヌはボリスのためにカトリーヌを説き伏せて、彼女たちの部屋を開け渡しさえした。

そして自分たちは屋根裏で3日間を過ごしたのだ。

ボリスはすっかり毒を抜かれていた。

ジャンヌの見返りを求めない純粋な心に負けたのだ。

ボリスは3日後、ジャンヌたちに感謝を述べて村を出た。

「川辺でのボリスの形相はあまりにも変わっていたからオレも最初は気づかなかったし、ボリスもケガで気がたっていたのかオレに気がつかなかった。けれどジャンヌが遠くからオレを呼んだ途端に、ボリスはジャンヌに向かって走り出したんだ。それはもう嬉しそうに。ボリスはケガで意識が朦朧としていてドンレミ村にいるってことすら知らなかったんだ」





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