†神様の恋人†

神の声

だからわたしは、ジャンヌが“神の声”を聞いたと知っても、驚かなかった。

この年の夏、ジャンヌ13歳の夏の真っ盛りのことだった。





「ジャンヌ、恋ってしたことある?」

唐突にした質問に、ジャンヌは目を丸くして、そしてすぐに笑った。

「なになにミシェル?ひょっとして恋しちゃったんじゃない?」

今日は日曜日で、わたしたちは村の近くの森に遊びに行く途中だった。

「そ、そんなんじゃないよ!ただ…恋ってどんなものなのかなって思って…」

「…ん~、わたしにはわからないな。でも、恋って神様と同じ。目には見えない。でも人間は恋していることを言葉で表現し、相手に伝えることができる。…神様だったらどうするんだろう?誰かに恋したら、どうやってそれを相手に伝えるんだろう」

真面目な顔でそんなことを言うジャンヌに、わたしは少し噴き出してしまう。

「ふふっ、ジャンヌ、なにそれ~!?神様はこの世のもの全てをきっと慈しんでくださっているのよ。特定の誰かに恋をするなんて、あり得ないよ」

ジャンヌもそれを聞いて、クスクスと噴き出し始めた。

「そうだね。神様が恋するなんてちょっと妄想が過ぎたね。毎日神様のことばかり考えているから、わたしは恋する女にはなれないなぁ。乙女失格だね」

でもわたしは知っている。

ジャンヌがこの村のみんなに愛されていることを。

病気の人がいればすぐに看病にかけつけ、貧しい人には、自分の食べ物まで分け与えてしまう少女だってことを。

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