†神様の恋人†
『わたしは、神の声に従ってやって来ました』

『神は、王太子様がフランス王としてご即位されることを望んでおられます。このわたしが、必ず王太子様を戴冠式にお連れします』

この話をひとづてに聞いて、わたしもジャンヌの家族たちも、初めてジャンヌがなんのために村を出たのかを知った。

そして、ジャンヌが思いつめていた理由も、この時初めて知ったのだ。

ジャック父さんも、イザベル母さんも、敬虔なクリスチャンではあるけれど、ジャンヌには、普通の娘でいてくれることを望んでいた。

もちろん、こんな16歳の少女が言う話をロベール守備隊長が鵜呑みにするはずもなく、ジャンヌは2度とも鼻であしらわれた。

ジャック父さんは、ジャンヌには普通の娘として幸せな結婚をしてほしい、と言い聞かせた。

でも、ジャンヌの瞳は、ジャック父さんに向かってはいても、いつもその先のフランスの空を見つめていた。

フランスの危機を感じて、ジャンヌの正義感がふつふつと燃えたぎっているのか、それとも、本当に“神の声”を聞いたのか。

ジャック父さんたちは、ただ、混乱していた。

でも、わたしは、3年前のあの夏の日から。

ジャンヌの心に芽生えた炎をずっと感じていた。

フランスの青い風が優しく吹く草原を颯爽と歩き、炎をその剣にはべらせた、ジャンヌ。

その炎は、神への忠誠心か、それとも恋心か…………?

どちらにしても、ジャンヌは“普通の少女”であることを捨てた。

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