†神様の恋人†
ジャンヌたちは、この後、3ケ月ほどを疎開先のヌフシャトウで過ごすことになった。

ラ・ルースという名の女性の宿屋に一家で世話になったジャンヌたちは、ただ、神に祈り、日々を無事に過ごすことだけを願っていた。

あの日、一人でカトリーヌを連れ戻しに行ったジャンヌは、命尽き果てようとしている姉を助けようと割って入り、兵士に襲われかかった。

だが、兵士はジャンヌのことを心配して戻ってきていたボリスによって命を絶たれた。

カトリーヌの愛するレミは、森の中へ入っていったのを目撃した者がいたが、そのあとの行方は未だ知れていない。

この10月までの3ケ月は、ジャンヌ一家にとって、とてもつらい日々となった。

ドンレミ村への望郷の想い、愛するカトリーヌの死、そして愛する祖国もまた、その聖なる玉座を奪われようとしていた。

戦争の悲惨さを嫌が応でも痛感するこの日々は、ジャンヌに何を想わせたのか―――?




ちょうどこの頃。

1428年、10月。


イギリス軍は、ロワール川流域の戦略的要地で、パリ、ルーアンと並ぶ豊かな街であるオルレアンを包囲。

これにより、フランスはその国土の半分近くを失うこととなった。

冬が訪れても一向に解かれないその包囲に、オルレアン市民は、食料不足と病気の蔓延で、その戦意を喪失していった。




彼らは、凍てついた街で、“救世主”を待ち焦がれていたのである。





そう、一人の“乙女”が、その街を訪れるまで――――――。










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