†神様の恋人†
チャリーンと金貨がテーブルに落ちる音と、水の滴る音。

客たちの視線が一点に集まっているのがわかる。

「ここは、酒屋でも娼館でもないの。酒と女で遊びたいなら他に行ってくださる?他のお客様のご迷惑ですから」

チップの入ったグラスの中身をカミーユに向かって放ったわたしの胸はかなりスッキリしていた。

カミーユは綺麗な顔と髪をお酒でぐしょぐしょにしながら、しばし動かなかった。

あ……れ?動かない……。

スッキリしたとは言え、どんな反撃がくるのか恐れていたわたしは、半ば拍子抜けしていた。

動かないカミーユに代わって美女が突然怒りを露わにした。

「ちょっと、あんた!!客に向かってどういうつもり!?カミーユの綺麗な顔になんてこと…」

言いかけた美女をカミーユは制止するように立ち上がった。

「…カミーユ?」

「…帰ってくれないか?」

伏し目がちに低い声で呟いたカミーユ。

「ちょっとカミーユ、どうしたっていうの!?」

美女が驚いた様子でカミーユの腕を掴む。

カミーユはそれを無理やり引き剥がすと、ダイニングの出口に向かって歩きながら言った。

「帰ってくれ!」

2階へと消えたカミーユを呆然と見つめるわたしに客たちやジャンヌが寄ってきた。

「あんたすごいな。たいしたタマだ。度胸あるなぁ」

そう言って感心するおじさんたちを掻きわけて入ってきたジャンヌが言った。

「ミシェル…どうしたんだよ?わたしより男前なんじゃないの?」

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