†神様の恋人†
「ラファエル様。エリザが部屋でお待ちしますと申しております。これはどういう風の吹きまわしか。なんにしてもお客様は幸運ですよ!ささっ、こちらへ!!」

奥から戻ってきた男がわたしを、まるで急いだほうがいいというように急かす。

娼館の、しかも娼婦の女が一人待っている部屋に行くなんて、今さらながらどうしようと不安で堪らなくなりカミーユを振り返った。

でもカミーユを見た瞬間、怒りでいっぱいになった。

いつの間にか胸のとびきり大きな娼婦に抱きつかれ、部屋への誘いを受けているカミーユ。

「あらぁ、あたしの好みの方…ねぇ…あたしを朝まで好きにしていいわよぉ…」

カミーユの首に絡みつく女の妖艶に動く腰に、わたしの怒りは絶頂に達し、さっきまでの不安なんてどこ吹く風。

「じゃ!どうぞ!そちらもお好きに!!」

なんでこんなに腹が立つのか。

カミーユが女たらしなのは、出会った時からわかっていたこと。

あんなのよりジャンの方がすっごくかっこいいんだから!!

ズンズンと男について娼館の奥へと進み始めた時、娼婦を片手にしたカミーユが叫んだ。

「ラファエル!!」

「……え……?」

カミーユは、自分の人差し指と中指を唇に当てると、自信過剰なほどの笑顔で投げキッスした。

娼婦も誰も気づいていないけど、それがカミーユからの“頑張れ”という合図に思えて、くすぐったかった。

……なによ、騙されないんだから。

それはとんでもなくかっこいい投げキッスだったに違いない。

……娼婦に抱きつかれてさえいなければ、ね。




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