†神様の恋人†
その時、突然固く閉じられていた扉が音をたてて開いた。

重々しい音とともに現れたその男は、片手に食事がのったトレーを持って近づいてきた。

そして、冷たい床にそれを置くと、わたしの顔を蛇のように凝視し、にやりと笑った。

「…シセ…わたしは構いません。でも、この子は出してあげて。こんな若くて罪のない子を……神の罰がくだりますよ」

シセと呼ばれた例の悪徳商人顔の男は、エリザの言葉など意にも介さないように、鼻で笑った。

「罪のないだと?笑わせる。人間は罪を犯すようにできている。今は天使のように無垢な少女でも、いつか毒に侵され罪を重ねる。それが人間だ」

「…それは、あなたのことですか?シセ」

二人の間に、冷たい沈黙が流れた。

シセは、まるで人間が罪を犯すのは当然だという。

でも、罪を悔いるのもまた、人間だ。

「エリザ…生意気な口をきくようになったな。いいだろう。私もお前にはうんざりしていたところだ。今夜お前を買いたいという男がいる。これで最後にしてやる。あとはどこへなりとも好きに出ていくといい」

エリザは一瞬息も止まったかと思うほど動かないままだった。

エリザにとってそれが嬉しいことなのか、哀しいことなのか、わからない…そんな表情。

少しして、彼女はゆっくりと息を吐くと、シセの顔をきつく凝視して言った。

「…わかりました。受けます。でも、出ていくときはこの子と一緒です」

その瞬間、シセの無表情が、微かに淀んだ気がしたけど、彼はすぐに作りものの商人の笑顔を見せた。

「いつものように相手の名は聞かないのかな?まぁいい。どちらにしろお前は受けるしかない。大富豪ジル・ド・レイ様がお前をご所望なのだからね」



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