†神様の恋人†
あのシセが簡単にエリザを手放すなんて、その男はどれほどの大金を積んだのか。

ジル・ド・レイ。

大富豪の孫で、男色の男。

祖父に勧められるままに領地や財産を増やすためだけに結婚し、その妻を今、こうして不幸にしている。

エリザが彼女の夫、ジル・ド・レイの名を聞いたときの動揺は、計り知れないものがあった。

彼女はその名を聞いた途端、神に祈るように顔の前で十字を切った。

彼女がそれほどに恐れる夫とは一体どんな人間なのか。

わたしは震えるエリザをずっと抱きしめていた。

「エリザさん…そんなに嫌なら行くことないよ。こんなに震えてるじゃない」

エリザは震えながらも、激しく首を横に振った。

「ううん…わたしが行かなければ他の誰かが行かされる。ミシェルかもしれない。あの男は異常なの。無垢な少年も無残に殺せる。…わたし、見たのよ。少年に対しては異常な執着を見せるの。わたしを迎えにくるはずなんてないと思ってたけど……来たということは、どんな目にあうか…それが恐ろしいの」



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