雪が降った。そして君が。
 美帆、待ってろよ。

 僕は心の中で呟き、立ち上がる。手の中の小さな塊が溶けてしまわないように、いや、また僕の中に入り込んでしまわないように肌に触れる箇所を最小限に抑え、駆け出した。
 いつの間にか空には太陽が顔を出し、頬に当たる冷たい感触はもう無くなってしまっていた。


 美帆と知り合ってもう二年の月日が過ぎた。確か、彼女と初めて会ったのも雪の日だった。
 だからだろうか? 雪を見ると、その時のことを鮮明に思い出してしまうのは。雪のように白い滑らかな肌を桃のように染めてはにかむ君の姿を。
 あの時の君の笑顔をまた見てみたい、そう願ってしまう僕はやはり欲張りな人間なのかもしれない。


 そう――美帆は笑わない。

 もう一年以上になる。それだけじゃない、泣くことも怒ることも、そして喋ることさえしない。
 父親からの暴力、そして性的虐待、さらには母親の自殺。彼女はそれら全てを抱え込み闇に籠ってしまった、たったひとりきりで。

 僕はそれを知っていながら何も出来なかった、守れなかった、背負ってやることが出来なかった。もっと頼ってくれ、君のことをわかりたいなんて口ばかりで上辺ばかりで、いつも守られていたのは与えてもらっていたのは僕の方で。

 結局、僕は美帆を苦しめてばかりだった。
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