雪が降った。そして君が。
「あらっ、陽斗くん、どうしたのそんなに急いでっ?」
 病院に着いた途端、すっかり顔馴染みになっている看護師さんが僕の姿を見つけ声をかけてきた。
 温かすぎるこの空間のせいで、僕の手の中にあるものがますます小さくなり始める。焦った僕は、足を止めることもせずに小さく頭だけ下げ、通り過ぎた。


「――美帆っっ」

 勢いよく病室の扉を開く。バンッと大きな音を立てたのにも関わらず、美帆はこちらに顔を向けることもなく、ベッドに横たわったまま。茶色がかった瞳を天井に向けて。

 きっと窓も覗いたりはしていないのだろう。カーテンが閉じられたままだ。やはり持ってきて正解だった。
 と、ここに来て気付いたが、わざわざあんな遠くから運んで来なくともこの病院に着いてから作ればよかったのではないか? ああ、やっぱり僕は無鉄砲でどうしようもなく抜けている。

「美帆っ、これ!」

 まあ、なんとか持ち堪えてくれたからいいか。僕は手の中で徐々に小さくなっていっているものを、ベッドの上の長細い可動式のテーブルに置いた。

「雪だるま!」
 と、ちょっぴり偉そうに言ったのも束の間。

 いつの間にかそれはもう石ころ程度の大きさしかなく、米粒大の小石で形成された目は垂れ下がり、なんとも情けない表情になってしまっている。
 どう見ても雪だるまになんて見えなかった。

「あ……いやっ、さっきまではさ、すげえ立派な雪だるまだったんだって!おかしいな~」

 この場に及んで、またもやカッコつけようとする愚かな僕。
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