雪が降った。そして君が。
 な、なんだ? 一体なにが起こったんだ? なんで走っているんだ僕は。
 顔を人に見られないように僕は俯き、小走りに外へ出た。

 なんなんだよこれ。おかしい。おかしい。

 こんなにも次から次へと涙が溢れ出てくるなんて……。ああ、もしかしたら涙が止まらないなんていう変な病気になってしまったのかもしれない。きっとそうだ、だっておかしいだろ。


 美帆がただ、笑っただけなのに――。

 そうだ。今、彼女は笑った。気のせいだとか、なんとなくだとかそんなレベルじゃなくて。確実に。いつもの僕の妄想や錯覚なんかじゃない。
「ぅくっ」
 思わず声が漏れる。幾度となく頬を拭ったせいで袖がびっしょりだ。駄目だ、ちっとも止まらない。
 呼吸が荒れ苦しくなり、僕は唾を飲み込みながら薄い水色のベンチに腰を降ろした。いつも美帆が介護士と散歩する時に座っているベンチ。
 何度も何度もシュミレーションしてきたはずなのに。夢にだって数え切れないほどに見てきたっていうのに。
 美帆が笑ったら、普通に僕も笑い返そう。なんでもなかったように。そう決めていたはずなのに。

 なのにどうしてこんなに涙が出てくるんだ。悲しいわけでもない、悔しいわけでもない。じゃあ、この涙はなんだっていうんだ……?
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